キングコングの西野亮廣氏が絵本『えんとつ町のプペル』を無料公開したところ、まあ、燃える燃える、ワイドショーやネットニュースをを巻き込んでの大炎上。
その中には「2000円払って絵本を買った人を馬鹿にしてる!かわいそうだ!」との声も。
しかし、「2000円払って絵本を買った
俺を馬鹿にしてる!かわいそうな
俺!」といった、絵本を買った本人のものと思われる意見はついぞ見なかった。
というわけで、
2000円払って10月にえんとつ町のプペルを買った私が一言物申す!
私は、「馬鹿にされた」とも、「お金を損した」とも思っていない!
勝手に人のことを「かわいそうな子」呼ばわりするんじゃぁない!
まず言いたいのは、「買った後で無料になるのは、この絵本だけではない」と言うこと。
西野氏に文句を言うのなら、他にもいろんなところに返金を求めなければならない。
「金とっといて後から無用化するなんて馬鹿にしてる!」の理屈が通ったら、それこそ市場崩壊です。
例えば、今度テレビで「アナと雪の女王」が放送されます。
でも、僕は1000円以上払って、あの映画を映画館で見ているのだ。
バカにしてる!僕の映画代帰せ!
「君の名は。」を数回劇場で見た、なんて人がいるみたいだけど、あの映画も絶対そのうち地上波でやります。ただで見れます。
なので、その時は新海誠に1万円ぐらい請求できるはずだ。
また、夏に1300円払って見た仮面ライダーの映画は、もうビデオ屋で380円でレンタルされている。もう少しすれば、100円でレンタルされるだろう。
バカにしてる!僕の1000円を返せ!
さらに、今までせっせと集めてきたCDの音楽たちも、you tubeで無料で見れる。
バカにしてる! CD代を返せ!
さらに、僕が中学生のころからせっせと買ってきたONE PIECE全83巻(2017年1月現在)は、もう全話無料配信されるのだとか。
バカにしてる! 今までワンピにつぎ込んできた約3万円を返せ!
とまぁ、
「絵本を無料で公開すること」よりも、「無料公開された絵本に返金を求めること」の方が、どうやら市場に大打撃を与えるようです。
ここからわかることは、
僕たちは作品の価値に対してお金を払うつもりなんて最初からなくて、作品の媒体と鮮度にお金を払ってるということ。
全く同じ映画でも、劇場で見たら1800円だけど、DVDレンタルなら380円。
全く同じ漫画でも、新刊は420円で、BOOK OFFだと100円。
作品の良し悪しに関わらず、高価な媒体を使えば値段が高くなるし、新鮮なほど値段が高い。
つまり、
『えんとつ町のプペル』についた値札の2000円は「本」と言う媒体と、「ネットより早く読める」と言う鮮度の値段であって、話の中身自体の値段ではない。
さて、もう一つ、私が2000円払ったのに無料化に怒らない理由。
それが
「2000円は西野氏へのおひねりだと思っている」と言うこと。
西野氏が著書に書いている「芸人の定義」をまとめると、
「ステージ上やテレビ番組だけではなく、生き様として面白いものを見せる人」のことを彼は芸人と呼ぶらしい。
だから、絵本を作ったり、町を作ったりしているわけだ。
そういう活動や生き方を見せて、「西野って面白いなぁ」と思わせることが彼にとっての「芸人に生き様」らしい。
そして、その生き様自体はとっくのとうにブログなどで無料公開されている。
すると、人ってのは不思議なもので、
どこかでおひねりを払いたくなる。
「西野が絵本を出した」と言われると、「たまには2000円くらい西野に払わないとな」と言う風に考える。
大衆演劇でいう「おひねり」と一緒だろう。すでに入場料を払てみてるのに、ひいきの役者に入場料の何倍もするお金を挙げちゃうあの心理。
「払わないとな」と言うとなんか消極的だが、
「この2000円でまた面白いものを見せてくれ」や
「この2000円でうまいもの食ってくれ」というメッセージだったりする(2000円が丸々西野氏の懐に入るわけではないが)。
この「おひねり感覚」は何も大衆演劇の専売特許ではなく、みんなも1回ぐらいはやったことがあるはずだ。
好きなバンドのベストアルバムが発売された。長年ファンをやってるので、すでに全曲持っている。
でも、買っちゃう。
さらに、何が違うのかよくわからない初回限定盤を買っちゃう。
おまけにグッズも買っちゃう。それも、ライブに行ってないのに通販で買っちゃう。
ブログが書籍化されたら買っちゃう。全部ネットで無料で見れるのに、買っちゃう。
これみんな、おひねりの心理である。
「いつもいい音楽を聞かせてくれて、いい作品を見せてくれてありがとう。少ないけれど、これでおいしいものでも食べて!」の心理である。
西野氏いわく、お金は「信用を数値化したもの」で、「信用が大きければ、あとからお金を回収できる」らしい。
つまり、おひねりである。
すなわち、『えんとつ町のプペル』を買った内の一人の意見としては、
2000円は普段面白いことを無料で見せている西野氏へのおひねりであり、また西野氏が面白いものを見せてくれれば、十分元手が取れるというわけだ。
そして、
「また面白いもの」こそが「絵本の無料化」である。
なぜなら、
まじめなクリエイターほど、「作品を無料で公開しても、おひねりで生活できるのか」という疑問を抱いているからだ。
本にしろ絵にしろ音楽にしろ映像作品にしろ、それ自体に値札をつけて生計を立てるのは難しい。
多くのクリエイターは、自分の才能に絶対の自信がある一方で、誰よりも自分の才能を疑っている。
特に、「出版不況」だの「音楽不況」だの言われる昨今である。いい物作ったって売れないのだ。
そのうえ、もはや音楽も小説も漫画もゲームも、なんでもネットで無料の時代だ。かつては「水と安全はタダ」なんて言われていたが、もはや「アートとエンタメはタダ」の時代である。ますます本も音楽も売れない。
だったら、
「本が売れない」のではなく、「本を売らない」、「音楽が売れない」のではなく「音楽を売らない」にシフトしていく必要がある。
特に、大衆受けを狙わず、アングラを突き通したいクリエイターほど、作品の売り上げは見込めない。
ならば、
「何となく作品を買ってくれるミーハー」より、「熱烈に応援してくれるファン」を増やして、作品の売り上げよりもおひねりをもらう方向にシフトしていくと考えるべきなのだ。
アングラ系バンドが全然認知されていないにもかかわらず活動を続けられるのは、きっとこういうことなんだろう。
そんなことを考えたことがある人なら、一度は「俺の作品を無料で公開して、おひねりはもらえるのか?」と気になったことがあるはずだ。ならば、今回のプペル無料化の試みの行く末は自分事のように気になるのだ。
結果、『えんとつ町のプペル』の売り上げは増大し、増刷が決定した。もちろん、「キンコン西野だから」と言うのもあるだろうし、おひねり感覚で買ったわけではないのかもしれない。
だとしても、今回の試みとその結果は、十分2000円に似合う「面白いこと」なのだ。
これは、あくまでも『えんとつ町のプペル』に2000円払った内の一人の意見である。
僕らに西野氏を批判する時間なんてない?やるべきは批判じゃなくて……。
⇒
嫌わない勇気