令和の仮面ライダー第1弾、「仮面ライダーゼロワン」の製作発表が行われました。同時に公開された予告動画を見て、僕は「ほげげー!」と驚嘆の声をあげたのです。
なんと、
最初から女性ライダーがいる!
これがどれほどすごいことなのか、女性ライダーの歴史を追っていけばわかるはず。
というわけで、今回は女性ライダーの歴史を見ていきます。
昭和ライダーに、女性はいませんでした。「電波人間タックル」という、ちょっとライダーっぽい能力を持つ女性はいたけれど、「仮面ライダー」を名乗る女性はいなかったのです(写真は広瀬アリスバージョン)。
公式では、初の女性ライダーは「仮面ライダー龍騎」の映画に登場する
仮面ライダーファム。
女優の加藤夏希が変身したライダーで、白鳥がモチーフとなっています。
以後、実はちょいちょいと女性ライダーが登場しているのですが、いずれも映画だけだったり、テレビに登場してもゲスト扱いだったり、ほかのライダーのベルトを借りて変身してたり。
「テレビ本編に登場」「ゲストではなくメインのライダーとして」「自分専用のベルトで」を満たす女性ライダーは全然出てきませんでした。
その歴史が動いたのは2013年。作品名は「仮面ライダーウィザード」。
女子高生・稲森真由が変身する
仮面ライダーメイジがテレビシリーズ本編に登場したのです!
自分専用のベルトを使って変身し、第40話から最終回までの10話ほどに登場したのです。
テレビ本編で、メインのライダーとして、自分専用のベルトで、変身した初の女性ライダーです!
とはいえ、この仮面ライダーメイジは実は
量産型。テレビ本編ではあと二人メイジがいて、いずれも男性が変身します。
しかし、量産型とはいえメインの変身者は女子高生の稲森真由、ということで、この
メイジの登場で女性ライダーの歴史はかなり動いたのです。
翌年の「仮面ライダー鎧武」には女性ライダーである
仮面ライダーマリカが登場。果物の桃をモチーフとしたライダーです。マリカは量産型ではなく、
変身者は湊耀子ただひとり。登場期間も半年以上と、女性ライダーの歴史をこちらも大きく塗り替えました。
ちなみに、マリカに変身する湊耀子を演じた佃井皆美さんはJAE所属のアクション俳優。変身前だけでなく、変身後のスーツアクターも自分で演じるという離れ業をやってのけました。
とまぁ、女性ライダーもだんだん当たり前になってきたところで、次に歴史が動いたのは2017年の「仮面ライダーエグゼイド」に登場した
仮面ライダーポッピー。
この仮面ライダーポッピーは史上初、
メインヒロインが変身した仮面ライダーです。モチーフは恋愛ゲーム。
(一応念のために行っておくと、メインヒロインが「テレビで」「専用のベルトで」「長い期間にわたって」変身した、という意味で史上初)
そして、令和元年の2019年。製作発表で女性ライダーの「仮面ライダーバルキリー」の登場が発表されました。
これまで紹介した女性ライダーは皆、「シリーズの途中からの登場」。
製作発表の段階ですでに女性ライダーの登場が発表されているのは、このバルキリーが初!
「女の子は仮面ライダーに変身しない」が当たり前だった昭和から平成を経て、ついに令和元年、「最初から女性ライダーがいる」という時代になりました。
そのうち、「女性ライダーがいるくらいで何を騒いでるんだ?」なんて時代が来るかもしれません。
これは本当にすごいことです。
特撮界隈ではしばしば、「女の子が仮面ライダーを見てたら幼稚園でいじめられた」「女の子だからって理由で変身ベルトを買ってもらえなかった」みたいな話があがり、そのたびに「女の子だって仮面ライダーが好きでいいじゃないか」という声があがります。
中には、「仮面ライダーは男子が見るものだ。女の子は見るな」と公然と言い放つとんでもない大人もいます。
確かに、仮面ライダーシリーズのメインターゲットは、男の子です。それは揺るがない事実。
しかし、「男の子をターゲットとした作品」というのは「女の子は見ちゃいけない、好きになっちゃいけない」というわけではありません。
それは「なぜターゲットを設定するのか」という理由を見ればわかります。
誰だって作品を作る以上、一人でも多くの、いろんな世代に見てほしいのです。商品を売る以上、いろんな世代の人に買ってほしいのです。
その方がお金になるしね(笑)。
ところが、「万人受けするように」作った作品や商品というのは、誰にもウケずに終わることが多いです。八方美人というやつですね。
なので、「ターゲット」を設定し、「ほんとはみんなに見てほしいんだけど、みんなにまんべんなく受けようとすると失敗するから、特定の性別、年齢などを絞り込み、そこにウケるように展開しよう」、すなわち、ターゲティングの必要が出てくるのです。
仮面ライダーシリーズの場合は、小さい男の子をメインターゲットに据えています。小さい男の子に人気が出るように狙っていく。男の子が好きそうなものをモチーフにして、男の子が好きそうなデザインで、男の子が好きそうなおもちゃで。
ところが、ターゲティングはあくまでも「万人受けを狙っても失敗するから」行うものであって、万人受けできるのであれば、それに越したことはないわけです。
「仮面ライダーは小さい男の子がターゲット」というのはあくまでも、「売り方」の問題でしかなく、「女の子はターゲットじゃないから売らないよ! 見せないよ!」というものではありません。「小さい男の子を中心に、より多くの人に見てもらおう」というものなのです。ターゲット外である女の子が仮面ライダーを好きになってもいいのです。
だって、
本当は「一人でも多くの人に」見せたいのだから。でも、一人でも多くの人にウケるようにやってもうまくいかないから、ターゲットを設定する。でも、本当はひとりにでも多くの人に見てほしい。
思えば、日本の特撮の歴史は、たびたび女性に救われてきました。
1990年代初頭、戦隊シリーズはマンネリ化し、いつ打ち切られてもおかしくない状況でした。それを打開しようと、1991年の「鳥人戦隊ジェットマン」では、当時ブームだったトレンディドラマの要素、恋愛要素を盛り込みました。
これが、子どもを飛び越えてお母さん世代に大うけ。現在まで戦隊シリーズが続く礎となったのです。
仮面ライダーも同じ。平成仮面ライダーシリーズは2006年の仮面ライダーカブトまでは、毎回打ち切り覚悟で作られていたそうです。
ところが、2007年の仮面ライダー電王で多くの人気男性声優を起用した結果、
声優ファンの女性を中心にバカウケ。「また女に救われたのか……」と言ったかどうかはわかりませんが、電王以降のシリーズは「毎年製作することが前提」となりました。
男の子だけの人気では、ヒーローシリーズはなかなかやっていけないのです。その歴史の要所要所で女性人気を獲得したことで、シリーズは10年20年と続いて行ったのです。
女の子は仮面ライダーを見ちゃいけないのか。女の子は変身ベルトを買ってはいけないのか。
この仮面ライダーバルキリーの登場が、一つの公式見解であるような気がしてなりません。