「刀使ノ巫女」以来久々に語りつくしたいアニメに出会ったので、筆を執る次第であります(「彼方のアストラ」って「刀使ノ巫女」とけっこう声優さんかぶってるんだよね)。
「彼方のアストラ」。原作は2016年から2017年まで、少年ジャンプ+で連載されていたマンガです。作者は「SKET DANCE」などで知られる、
篠原健太先生。
「彼方のアストラ」は2019年に第12回マンガ大賞を受賞しています。こういう前評判はあまり気にしてなかったんだけど、実際にアニメの方を見てみると、なるほど、受賞するのも納得です。
まずは「彼方のアストラ」の簡単なあらすじから。
舞台は宇宙旅行が当たり前になった2063年。ケアード高校のB-5班の9人は宇宙キャンプへと出かけるが、キャンプ先の惑星で謎のワームホールに飲み込まれてしまう。
ワームホールに飲み込まれた9人は宇宙空間に放り出されてしまった。宇宙服を着ていたため、即死は免れたが、このままでは宇宙空間で何もできずに死んでしまうのも時間の問題。
だが、偶然にも無人の宇宙船が漂流しているのを発見し、9人は宇宙船に乗り込む。宇宙船は幸いにも動かすことができたが、そこで知ったのは、今いる場所が故郷から約5000光年も離れた場所だということだった。
9人は宇宙船を「アストラ号」と名付けて、超光速航行と途中の惑星での食料の補給を繰り返すことで、遥かかなたの故郷を目指す。
ゆく先々の惑星で待ち受ける、未知の生物と危機的状況。9人は絶望的な状況の中でも次第に友情を深め、この冒険を楽しむようになっていく。
だが、冒険の初期段階で二つの重要なことが分かった。
一つは、9人を襲ったワームホールは自然現象ではなく、誰かが9人の命を狙って人為的に起こしたというもの。
そして、船内の通信機器が、9人が乗り込んだ後に破壊されたこと。
……9人の中に一人、彼らの命を狙う刺客がいる。それも「自分も死んで構わない」という覚悟で。
刺客は誰なのか。そして、なぜ9人は命を狙われたのか。果たして、9人は故郷に帰れるのか……。
注意! ここから先は、「彼方のアストラ」の最終回を踏まえて書きます! つまり、重大なネタバレを含みます!
警告したぞ! 警告無視してこの先を読んで、「ネタバレ知らなきゃよかった……」とか後悔しても、責任取らんからな!
ごほん。失礼しました。では改めて、僕が感じた「彼方のアストラ」の好きなポイントを4つ紹介します。
ポイント① 主人公のカナタ
「彼方のアストラ」の主人公、カナタ・ホシジマ。陸上十種競技の選手で身体能力が高く、リーダーシップに優れ、行動力、決断力、精神力が高い、まさに「ザ・主人公」。
でも、カナタの良いところは、それが「生まれ持ったもの」ではない、という点です。
カナタは中学生の時に山で遭難事故に遭い、自分を助けようとした恩師を亡くして、という過去があります。
再び同じようなことが起こった時に「何もできない」なんてことがないように、カナタは体を鍛え始め、サバイバルの知識と技術を身につけます。行動力も決断力も精神力も、この「何もできずに恩師を亡くした」という経験があったからこそ。
少年マンガだと「生まれ持っての主人公気質」ってタイプが多いけど、彼方のように「辛い経験があったから、そのような力を身につけた」という主人公の方が、僕好みです。
ポイント② 9人のキャラクターの個性が描き分けられている
カナタだけでなく、9人のキャラクターそれぞれが個性が強く、うまく描き分けられています。
何がすごいって、
「たった1クールで9人のキャラを描き分けた」ということ。
1クールアニメだとキャラを立たせられるのは、せいぜい5人か6人。それでも作品によっては、あまり印象に残らないキャラも出てきてしまうもの。
だけど、「彼方のアストラ」は9人ものキャラを、たった1クールで、しっかりと描き分けたのです。
もちろん、それぞれのキャラにメイン回があったんだけど、
「メイン回以外のシーンでも、しっかりとキャラを立てている」というのが大きいのかな。あと、それぞれの特技と旅での役割が明確に分けられているのも大きいかも。「医療ならキトリー」「射撃ならウルガー」みたいに、キャラを役割で把握しやすいんだと思います。
そして、
この9人が「誰か一人、刺客が混じっている」というのを分かったうえで、友情を深めていくのが面白かったですね。
刺客はシャルスだったんですけど(重大なネタバレポイント、警告はしたぞ)、みんなが最終的にシャルスを赦したのも、カナタがシャルスのために、文字通り体を張れたのも、「刺客がいるのはわかったうえで、友情を深めたから」かもしれません。
ポイント③ 構成がうまい!
「彼方のアストラ」は良く「伏線がすごい!」「伏線回収がすごい!」って言われてるんだけど、
僕は実は、そこんところはどうでもよくて(笑)。
伏線回収って、クライマックスの展開をしっかりと考えておけば、あとはそこに必要な伏線を適度に配置するだけなんですよね。
むしろカナタのアストラは「伏線の回収の仕方」よりも「伏線の置き方」が良かったと思いますよ。
それよりも僕が注目していたのが、
「毎週の終わり方」。
毎週毎週「来週どうなるんだ!」という絶妙なタイミングで終わるから、どんどん物語に引き込まれるんです。
絶妙なのが、
「彼方たちは地球人ではなかった」ことが判明した回(重大なネタバレポイント)。あの回は「は? 地球を目指してたんじゃないの?」っていう想いを抱いたまま終わったから、次の週が楽しみでしょうがない。
あと、シャルスが刺客だと判明した回。
区切るポイントはいくつかあって、たとえば、カナタが「ウルガーが刺客だ」って言ったシーン区切ることもできるし、カナタが「ウルガーは刺客をあぶりだすための囮。本当の刺客はシャルスだ」って指摘して、シャルスが答えないまま「続く」って終わり方もできるんだけど、実際はシャルスが刺客であることを認めて、「自分は王のクローンだ」と語り始めたところで切ってます。
「シャルスは刺客で確定」っていう形で終わらせることで、必要以上にもやもやせずに、むしろ「シャルスが刺客だったのかー!」っていう衝撃をしっかりと味わったまま、視聴者は次の週まで1週間を過ごすわけです。
まあ、最初カナタが「刺客はウルガー」って言ったときは、「それはない。たぶん、真の刺客をおびき出すための嘘だろう」と思ったけど。だって、みんなと距離をとってたウルガーが刺客って、いかにもさもありなんって感じなんだもん。
ポイント④ 最終回!
いかに途中までが良くても、最終回がちょっとあれだと、アニメ全部の印象が悪くなってしまう。それほど最終回というのは重要です。
「いいアニメだった」には、「いい最終回だった」が絶対不可欠です。
そして、「彼方のアストラ」は「いい最終回」でした。
やっぱり、
「ちゃんと帰ってこれた」、この一言に尽きます。出迎えの宇宙船からの「よく帰ってきたな」の一言が本当に暖かくて……。
これは、世界を旅した人ならわかるかなと思うんですけど、冒険の終わる前の日って、本当に切ないものなんですよ。友人は
「物のあはれを感じる」と言っていました。カナタたちが「やっと帰れる」という想いと「冒険が終わってしまう」という想いがせめぎ合うのを見て、「ああ、もののあはれをているなぁ」としみじみ。
そして、「アストラ号」が徐々に高度を下げ、街並みが見えてきた時のあのシーン!
大冒険の末帰ってきた故郷! 「どの星よりも美しい」とはまさにこのことですね。
そしていよいよ着陸するシーンで、
アリエスの「ただいま」。
このセリフのための全12話だったのだなぁ、このセリフを聞くための全12話だったのだなぁ……。また、水瀬いのりに泣かされたぜ……。
あと、アリエスの「私……2キロ増えました……」っていうセリフが好き。
帰還後の展開はちょっとできすぎてるかな、と思いましたが、誰かが言ったとおり、それはあの大冒険のおまけみたいなもの。ちょっとくらい、目をつぶりましょう。
むしろ、
カナタたち9人は違法に作られたクローンであり(重大なネタバレポイント)、
彼らの親が実は親ではなく、彼らクローンのオリジナルであり(重大なネタバレポイント)、
オリジナルが若返るためにクローンを作り、若いクローンの肉体を乗っ取る計画であり(重大なネタバレポイント)、DNA管理法の成立で
違法クローンを作った事が発覚するのを恐れて9人を「絶対に遺体が見つからない形」で葬り去ろうとしたわけなんですが(重要なネタバレポイント)、
最終回でオリジナルたちが全員、投獄され(重大なネタバレポイント)、
9人は「だれかのクローン」ではなく、一人の人間としての人生を歩み始めます。
最終回で描かれた7年後の世界で、変わらぬ絆で結ばれ、新たな冒険へと旅立つ9人を見ていると、彼ら9人のクローンは、若返りに固執して命をもてあそんだオリジナルたちよりも、よほど幸せな人生を送っているのではないか、そんな気がします。彼らが無事に帰ってきたことだけでなく、
彼ら9人のクローン人間がオリジナルよりも人間らしく生きていることもまた、一つなハッピーエンドなのだと思います。
この「彼方のアストラ」は、
すべての展開を知ってから見ると、また別の見方がで楽しめる作品です。
というわけで、今度は原作を読まないと。
今度はちゃんと、アリエスのことを疑いの目なしでヒロインとして見れるぞ(笑)
……だって、「意外性」「衝撃度」って観点で考えると、「アリエスが刺客」って十分アリエス、じゃなかった、あり得るんだもん。