最近、毎日のように悲惨な交通事故のニュースを聞きます。
そんな中、先日、交通事故の裁判を傍聴する機会がありました。
それも死亡事故。犠牲になられたのは学生さんだということで、なんともやりきれない気持ちになりました。
涙を流して謝罪する被告。涙をこらえて被告に質問をする遺族の方。ハンカチで顔を覆う遺族の方。
交通事故なんて、だれ一人得をしません。気づくと、勉強のために来ていた司法修習生の方の目にも涙が……。
死亡事故にまでいかなくても、事故のケガというのは深刻で、リハビリには時間がかかり、その人の人生を大きく狂わせます。
そんな交通事故の裁判を傍聴し、思うことがあります。
ハンドルを握る方は、最低3件、交通事故の裁判を傍聴するべきだと思うのです。
本当は、運転免許を取るときに、最低3件、交通事故の裁判を見て、レポートを提出する、というのを免許取得の条件に組み入れるべきだと思います。
そして、免許更新のたびに最低3件、交通事故の裁判を傍聴するべきです。
現状、そういう制度はないので、個人で裁判を見に行ってください。
なぜ交通事故の裁判を傍聴するべきかというと、加害者を見れるからなんです。
事故を起こしてしまった人間が、罪を背負ってしまったことでどれほど憔悴しているのか。
事故を起こしてしまった人間とその家族の人生がどれほど狂ってしまうのか。
裁判の冒頭陳述では、検察から事故の詳細を語られます。おそらく、加害者にとっても「人生最悪の日」の「二度と思い出したくない瞬間」のことを、もう一度、目の前で、詳細に語られ、記憶を呼び起こされる。耳をふさぐことなど赦されません。
そして、その日、その瞬間のことを何度も何度も聞かれます。そのたびに、最悪の記憶を呼び起こさねばならない。
さらに、被害者やその遺族が傍聴することもあります。場合によっては、相手の弁護士だけでなく、遺族の代表が加害者に対して質問をすることもあります。僕が傍聴した裁判では、犠牲となった女の子のお父さんが、冷静に、それでも怒りや悲しみを抑えきれない、そんな風に質問をしていました。
加害者は、その遺族と法廷で向き合い、その怒り、悲しみ、憎しみを受け止めなければいけません。
ハンドルを握る人には、そういった交通事故の裁判を最低3件は傍聴してほしいのです。
そして、ハンドルを握る前にもう一度考えてほしいのです。
もしかしたら、自分も「被告」としてあの席に座り、尋問されることがあるかもしれない。
「加害者」「人殺し」として生き続け、家族にも辛い思いをさせ、遺族からは憎しみや怒りのまなざしをぶつけられる。
ハンドルを握ってペダルを踏む限り、そのリスクからは絶対に逃れられません。
それでも、ハンドルを握る覚悟がありますか? そう、自分に問いかけてほしいのです。
もちろん、車を仕事に使う人もいますし、車がなくては生活のできない人もいるでしょう。事故が怖くても車を運転しないわけにはいかない、そういう人も多いと思います。
でも、「肝に銘じる」という意味で、最低3件、交通事故の裁判を傍聴してほしいのです。
「いやぁ、大丈夫だよ。俺、ゴールド免許だから」と思ってるそこのあなた。
僕が見た死亡事故の加害者も、事故を起こす瞬間まではゴールド免許でした。それも、ペーパードライバーなどではなく、日常的に車を使っている方でした。
相手の指がなくなるほどの重傷を負わせる事故を起こしたおじいちゃんも、ゴールド免許でした。「俺、ゴールド免許だから」は「今後も事故を起こさない」ということを保証するものではありません。
では、どうやったら交通事故の裁判を見に行けるのか。
全都道府県、県庁所在地のある街には地方裁判所があります。まずはそちらに行きましょう。
時間は平日の日中なので、仕事をしている人はなかなか難しいかもしれませんが、なんとか都合をつけて行ってみましょう。
問題は、「その日、交通事故の裁判があるかどうかは、行ってみないとわからない」という点です。行ってみたはいいけど、交通事故の裁判がない、そんな時もあります。
空振りするのが嫌な人は、東京地方裁判所のような大都市の裁判所に行ってみましょう。1日の事件数が半端ないので、たぶん、1件くらい交通事故の裁判があるはずです。
狙うのは「新件」と書かれた裁判。検察が冒頭陳述で事故の詳細を語ってくれます。被告本人や被害者、証人が証言台に立って、尋問を受けることもあります。
判決は後日に持ち越しの場合がほとんどですが、一度だけ、その場で判決を言い渡されたのを見たことがあります。
一方、「判決」と書かれた裁判は本当に判決を言い渡すだけです。
判決理由のところで裁判官が事故のあらましを読み上げてくれますが、加害者の人間性、事故の悲惨さ、遺族の悲しみまで見れるのは「新件」の方です。なるべく「新件」の裁判を傍聴しましょう。
そしてこれが一番大事なのですが、
裁判傍聴に行く際は、公共交通機関を使いましょう。
まず、傍聴人のための駐車スペースなんかねぇ、というのも理由なのですが、
もう一つ理由があって、
交通事故の裁判を見た後で、「車を運転して帰ろう」なんて気は多分起きないと思うので。